設立趣意書

財団法人英文法令社設立趣意書

 第二次世界大戦の終了により複雑な国際環境の中におかれたわが国としては、諸外国と親密な関係を保持していくことを最も必要とする。わが国の実情を明らかにし、諸外国の深い理解をうるためにいまいろいろのことがなされつつある。ことに米国との関係は、あらゆる方面において接近の度を進めつつあることは明らかなことであるといわなければなるまい。法律学の方面について観察すると、わが国の法律を理解したいということは、在日米国人を始めとして在日各国人の強く要望しているところであり、現に米国から法学者がわが国に派遣されてわが国の法律を研究することが継続して行なわれている。

 ひるがえってわが国の側にとって外国人にわが国の法律を理解させることについて何がなされているのであろうか。被占領期間中だけはわが国の法令が英訳されて英文官報が発行されていたが、独立回復のその日からこれは廃止された。しかも新法令は毎日公布されている現状である。外国人が日本を理解するのに困難な原因の大きな一は言語の相違であることは多言を要しないと思う。しかし、米国人であって日本語を勉強して役に立つ程度まで熟達する者は多いとは決していえない。微妙な国際環境の中におかれたわが国の現状を考えればむしろわが国の方が英語の勉強にもっと努力しなければならない。それならばわが国の主な法令は日本人の手によって正確な翻訳を敷いて彼等の要望に答えるとともに、わが国を正しく理解させるための資料を提供することも必要なことではなかろうか。

 右の観点からわれわれはわが国の法令の英訳を決意した次第である。米国のフォード財団はわれわれの趣旨に賛成し財政的援助を申し出られた。法務省、大蔵省、公正取引委員会の官吏やその他の方でわれわれの翻訳に協力して下さる方もあらわれた。ここにおいてわれわれは意を決して、この困難な事業を始めることとし、フォード財団から昭和三十一年度に受ける寄附金を母体とし、さらに学校法人東京経済大学の後援もえて、わが国の主なる法令の全部を英訳刊行することとし、ここに財団法人英文法令社設立を発起した次第である。

 なお、フォード財団からの財政的援助は、昭和三十一年度に対するものであって、昭和三十二年度以降については何等の言質も与えられてはいないけれども、われわれの翻訳や出版の実績次第では、今後も財政的援助が与えられる可能性が濃厚であると信ずべき理由があるので、われわれは一層の努力をしようと誓っている次第である。

昭和31年6月12日

文部大臣清瀬一郎殿

東京都北多摩郡国分寺町180番地

財団法人英文法令社
設立代表者田尻常雄


財団法人英文法令社設立準備委員会準備委員氏名

田尻常雄(東京経済大学学長)
粕谷寿郎
中根不覊雄(東京経済大学専任教授)
宮沢俊義(東京大学法学部長)
小池厚之助(東京證券取引所理事会議長)
橋本保(東亜火災海上再保険株式会社社長)
名取幸二(東京経済大学監事)
湯浅恭三(山武計器株式会社取締役)

(役職は当時)